カスパールの咆哮

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 大磯は空しかった。 自分が副会長になるその時は、部長は会長ではなくなる時でもある。 ――聖書に記されている通り、すべては空しいことで、風を追うのにも似ていると悲観さえもした。  そんな心境も相俟(あいま)って、大磯は全く朗読劇に身が入っていなかった。 身どころか心までもが、目の前の部長へと傾きっぱなしだった。  『盤上(ばんじょう)の君』と讃え称され、対局相手の心を見抜くのに長けていた部長であっても、部活の後輩の考えまでは読めないらしい。 そもそも対局中ではないのだから、読む気すらないのだろう。  再び聖書へと目を落とし、彼は朗読をする。 『霊感』と呼ばれる、神の特別な保護と指導とを受けて書き上げられた、神の本を――。 「これを知ったヘロデ王はひどくうろたえた。イエルザレムの人びととても同じことだった・・・・・・」 「――どうしたんですか?部長」  彼のことばかり、彼のことしか気に掛けていない大磯だったから、その声が明るさを失ったことにはすぐに気が付いた。 「いや、この後の話の展開を思うと――」  言葉の歯切れすら、悪い。 「この後って、三賢人たちがメシアをたずねるんですよね。お土産を持って」 「宝物(ほうもつ)だ」 「・・・・・・」  さすがの大磯も、自分がかかわる箇所は読むことはよんだ。 そして少しでも流れを憶えるべく、自分なりの解釈を加えてみた。 ――独自(オリジナル)過ぎて、部長からは添削を食らってばかりだったが。
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