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今度こそ聖書を持ち、所定の書架へと戻した。
その後を、けして広くはない背中を大磯は急いで追い掛ける。
まるで、迷い羊のように――。
大磯を顧みて、彼は言った。
身長差が10㎝近くあるので、自然と見上げることになった。
「話の流れは頭の中に入っているんだろう?だったら大磯、おまえがカスパールだったらどう思う?」
「え?」
「久しく待ち望んでいた救い主がお生まれになったと聞き及んだら、おまえは一体どう思う?」
考えるあまりに、大磯には彼の声の調子が変わったことにまるで気が付かなかった。
――聖書を朗読していた時よりも低くて、切ない声音だった。
「えぇーっと、うれしいです。すっごくうれしいです」
「聖油によって聖別されし者、メシアだからか?」
唇の端を持ち上げただけの皮肉めいた笑いも、大磯にとっては見慣れた部長の笑顔だった。
対して答える大磯は真顔もまがお、真剣だった。
考えにかんがえ、必死になって自分の言葉を探す。
「それもありますけど――、ずうっとずうっと待ち続けていたんですよね?」
「・・・・・・」
「そんな人が、あ、神様か。来てくれたら、すっげぇうれしいです!ホントに来てくれたんだーっ!やったー‼って思います」
「・・・・・・」
「ダメ、ですかね?やっぱり」
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