§4

1/1
前へ
/5ページ
次へ

§4

その花屋さんを出てから、私はすぐに後ろを振り返った。 もうここで、彼とは別れよう。 いつまでもぐずぐずしていても、申し訳ない。 「じゃあ、告白、がんばってね」  彼はうなずく。 「また今度、結果を教えてね」  彼の腕に抱えられた花束は、どんな女の子が受け取るんだろう。 「いいなぁ、私もこうやって、告白されたかったな」 「誰にですか?」 「好きな人から」 「いるんですか?」 「もうふられちゃったけど」 「えっ、いつです?」  後輩くんは、驚いた声をあげる。 「今、この瞬間」  せめて、にっこり笑って言おうと心に決めていた。 「今、目の前にいるキミに」  彼の動きが、ピタリと止まった。 「ウソ! 冗談よ。ごめんね、大事な時に変なこと言って。じゃあ、がんばって!」  さぁ帰ろう。 本当はずっと我慢していた。 こぼれ落ちそうな涙が、彼に見つかる前に。 「ちょっと待って下さい!」  その声に、私は振り返る。 「好きです。僕とつき合ってください」  目の前に、大きなバラの花束が差し出された。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加