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「石田君、TKCの酒田さんから。」
電話の保留ボタンを押しながら事務の女性が私に対応を求める。
「はい。」と言いながら受話器を上げてランプが点滅するボタンを押した。
この会社に入社して四年が経過したのだが、どうして自分がネクタイを締めて顧客の対応をしているのだろうと不思議に思う。
高校の三年間『お前、卒業する気ある?』と言われ続けていた私。当然、大学卒業以前に入学試験すら受けて無いのだから、能力は予想通りの低さだと自覚している。
が、
何処でどう歯車が違えたのか、今は有名大学卒業の肩書きを持つ方々とも商談をしている。
高校を卒業後、人手不足で困っていると友達に嘆願されて友達の親が経営する会社の関連である建築系の会社にアルバイトとして入社、一年間程所属していたが人手が足りてきた事もあり退職を願い出た。
引き留められたが、両親が別居し母親の体調が思わしくなかった。兄弟で家事をこなせるのは私だけだったので定時で終われる会社に転職せざるを得なかったのが主な理由だった。
そんな母親も今はクソ元気。
「お電話代わりました、石田です。」
私はそんな事を考えながら受話器を耳に押し当てていた。
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