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行くよ
私は、歪みの前で振り返り、心音を見た。
「行くよ」
と言い、心音の手を握りしめる。
・・・少し声が震えた。やっぱり怖い。
心音は、私の言葉に応えるように、私の顔を見て頷いた。
それだけで怖さが薄れ「大丈夫だ」と思えてきたから、不思議だ。
1歩ずつ、そっと進む。
歪みにぶつかったところで
ヒュオッ
と風が通り過ぎた。
「「きゃっ」」
2人の声が重なり、反射的に目を瞑る。
・・・少しして、目を開けた。
私達は、横断歩道の真ん中に立っていた。
そこには、ビルと、誰もいないのに光り続ける信号機が、たくさん並んでいた。
私達以外の人がいないことが、寂しい。
ぼーっとその景色を眺めていたら
「ひ、くっ・・・」
誰かのすすり泣く声が聞こえてきた。
・・・りりちゃんの声だ!
「りりちゃん!?いるの!?」
心音が叫んで、そっと私の手をはなし、周りを見た。私も同じように周りを見る。
「りりちゃん!」
心音が後ろを見て叫んだ。私も後ろを見る。
りりちゃんは、私達の後ろの方、横断歩道の上にうずくまって、泣いていたが、心音の声に気づき、顔を上げた。
そして、私達を見るなり、顔をパッと輝かせ
「心音!瑠花!」
と言って駆けてきた。そのまま、近くにいた私に抱きついてくる。
私は、どうしたらいいかとあたふたしながら
「く、来るのが遅く、なって、ごめんね」
と言い、ぎこちなく微笑む。
(よかった。見つかって)
心からそう思った。
あたふたする私の横で、心音も笑っていた。
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