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あれ
「とりあえず、この辺歩いてみよ!誰か、人に出会えるかもだし!」
私・・・瑠花は、わざと明るく、そう言い放った。
心音を不安にさせたくない。心音は、少し戸惑うようにしながらも
「そうだね!」
と明るく返してくれた。
「よし、行こ!」
私は、声を張り上げて、心音の手をとり、ずんずん歩き出した。
・・・ここなら、誰かいるかも。うん。きっといる。
不安にならないよう、自分にそう言い聞かせ、レンガの道を進む。
「誰もいないね・・・。建物も沢山あるし、誰かいそうなのに・・・」
心音が呟いた。
もう、しばらく歩いたけれど、人の姿は見えない。心音の言葉には返事をせず、私は進み続ける。
誰かいそうなのは、さっきのところも同じだった。道路も家もあったし。
でも、誰もいなかった。何でだろう・・・。
「あっ!」
いきなり、心音が声を上げ、足を止めた。
「どうしたの!?」
心音のほうを振り向いて、尋ねる。すると心音は、道路の先をそっと指さした。
「この先、何かあるの?」
落ち着いて、聞く。すると心音は
「あたしたちがここに来たときと同じ、『あれ』が・・・」
と言葉を濁した。何のことだろう。『あれ』って。
「『あれ』って何?とりあえず行くよ?」
そう言って、踏み出した。心音が目を丸くし、何か言いかけたところで
ヒュオッ
と風の音がした。
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