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「これ、完売してた図録じゃない!!」 「やっぱりご覧になってたんですね。僕が行った時は、まだ有ったんです」  それは、日比谷公園の中の文化館で行われた、アールデコの挿絵本に関する美術展の図録だった。  わざわざ見に行った訳ではなくて、予約した本を受け取る為に立ち寄った際に、たまたま開催されていたのだ。展示されていた挿し絵の中には、歌織のイメージと重なる女性も描かれていて、帰り際に思わず図録を購入した。  終了前にもう一度見たいと先日行ってみた際には、もう図録は売り切れていた。係の女性によると、この館で行ったイベントの中でも、かなり好評だったらしい。  歌織も見に行ったかどうかは知らなかったが、最初見たときから、好きそうだなとは思っていた。  アールデコの時代は、世界恐慌の寸前でファッションを初めとする文化が爛熟(らんじゅく)していた時期である。宝石が直接関わる訳では無いので歌織を誘うことは出来なかったが、いつか機会が有ったら話をしたいと、図録を持って来ていたのだ。 「良いの?」 「お持ちじゃないなら、貰って下さい。僕はもう何度も読みましたし、関連本も何冊か持ってますんで」 「でも」 「じゃあ、僕が見たいとお願いした時には、貸して下さい。それなら良いでしょう?」  強引に畳み掛けると、歌織は困った様に笑った。 「……嬉しい……読みたかったの。古書で買おうかと思ってたくらい」  古書で出回っている図録は、買えない値段では無いものの、値段が数倍に跳ね上がっている。そこまで望まれているのなら、安斎の元にあるよりも図録も何倍も幸せだろう。 「良かった。歌織さんの様に喜んで頂ける方に持っていて頂ければ、僕も嬉しいです」 「申し訳ないけど、お言葉に甘えるわ。ありがとう、安斎!」  今度は、眩しい程の笑顔だ。心から喜んでいるのが分かって、安斎も破顔した。
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