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「どういたしまして。そこまで言って下さったら、図録も本望でしょう」 「そうかしら……ねえ、安斎?」  図録を見ていた歌織は、不意に悪戯っぽく笑って安斎を見た。 「はい?」 「このあと用事が無かったら、このケーキ、一緒に食べない?」 「えっ」  予期せぬお誘いに、安斎の声がうわずった。 「おれっ……がご相伴にあずかっても、宜しいんですか……?!」  ……危なかった。感極まって思わず「御礼に貴女様の御御脚をお舐め致します!」と言いそうになりかけた。とっさに普段と違う一人称を使ってしまったが、大丈夫だろうか。  歌織はそんなことには気付かなかった様で、天女の様にころころとわらった。 「ご相伴なんて大げさね。勿論よ、美味しいうちに食べちゃいましょ……あ!」  フルーツタルトの上には、真ん中に大きく「Happy birthday」というプレートが乗せられていて、端に小さく「Joyeux Noël」というプレートが乗せられていた。 「すみません。誕生日のだけ付けてもらったら良かったですね」 「いいえ。……おめでたい事が、重なる日なのよね」  うっすらと微笑む歌織は、少女の様に儚く見える。抱き締めたいと思ったが、それは完全に職場におけるセクハラ案件になるだろう。 「……来年はちゃんとお好みも伺ってから早めに予約します、バースデーケーキ」 「ありがとう。その言葉だけでも嬉しいわ」  全くもって言葉だけでは無いのだが、歌織は有言実行しか認めないだろう。  ……来年は、最初から一緒に食べる為のバースデーケーキを買うのだ。  クリスマスケーキにバースデープレートを乗せた間に合わせを、偶然二人で食べるのではなく。  安斎の密かな決意など知らぬ歌織は、二人用サイズの小さなタルトに、自らさくりとナイフを入れた。        【終】
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