イブの魔法

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「……うぅ……おはよう、ございます」 頭が痛い、眩しい光りも(つら)い。 バーというだけあって、雰囲気作りの為に店内が薄暗くて助かったのは、今日が初めてだ。 「おう、今日も出てきたのか。休んでいいと書き置きしたはずだったが」 「バーテンダーが二日酔いだなんて、洒落にもなりませんからね……。 それより、昨日はすみませんでした。後半のことは自分でもよく覚えていなくって。失礼なこと言ってませんでしたか?」 鈍痛の響く頭を擦りながら聞くと、店長はニヤニヤと笑っている。 なぜか頭痛とは別に、寒気までしてきた。 「失礼なことも言われたさ。けどまぁ、これ(・・)だけでチャラだな」 そういって私の前にメニュー表を差し出してきた。 読め、ということなのだろう。 「なになに、えーと…… シンデレラ『オレンジ・レモン・パイナップルの艶やかなドレスで舞踏会へ』 マティーニ『ジンに溺れた一粒の人魚姫』 …………うわぁ、凄い数ありますね。なんですか? この中二病ポエム。なんだか読んでいるだけでムズムズしてきますよ」 店長は答えず、まだニヤニヤと笑ったままメニューの一ヶ所を指差した。ここを読め、ということなのだろう。 「トムアンドジェリー『ハンプティダンプティの暖かな歓迎』……。 …………トムアンドジェリー……?」 つい最近飲んだような気がする。いつだったか。 あぁ、そうだ。あれは昨日の一杯目の事で── 「な、え……これ、こ、こ、このポエム、全部、まさか………っ?!」 「あぁ、今日はクリスマスだったか。 楽しみだな、お客様は『中二病ポエム』をお気に召してくれるかどうか」 ──嫌だ。誰か、嘘だと言ってくれ。とんだクリスマスプレゼントだ。
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