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「私って、何してるんだろうって思ってしまって。
……あぁ。仕事が嫌とか、辞めたいとか、そういう話じゃないです」
「あぁよかった、新手の賃上げ運動かと」
店長はそういって笑いながら、向かいのカウンター席へと腰かけた。酒瓶は一通り、運び終えたようだ。
店長がカウンター席へ座る──こういう状況が全くないわけではないが、それでも店長が客席にいるというのは新鮮だ。
「きっとクリスマスイブとかクリスマスって、昔ほどこういう場所に来る時じゃなくなったんだろうなって。
私くらいの年代だと恋人とデートとかって印象ですけど、今はカップルにしても家でゆっくりするのかなぁって思いまして」
「なるほど。それで、孤独感に襲われたのか?」
「いえ。独りかどうかっていうのはそれほど重要じゃなくて。
……なんて言うんでしょうか。時代は変わっているのに、自分は取り残されているような気分になった……んですかね?」
頭の中のモヤモヤをなんとか言葉にすると、店長にもなんとか伝わったようで渋い顔をして頷いている。
「まぁなぁ、時代ってのは進んでいくものだ。
…私の頃はどうだったかな? そういう年頃には確かに遊んでいたが、もっと物騒な方だったからな」
「店長の身の上話とは珍しいですね。いいクリスマスプレゼントになりそう」
「んや、クリスマスプレゼントにはもっとふさわしい物がある。
……そうだな、客足も少ないし今日はもう閉めよう。プレゼントはそれからだ」
思わぬ返答に、心が踊ってしまう。そればかりか、きっと口角も。
それを誤魔化すように意気揚々と返事をして、閉店準備をした。
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