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一口ずつ、ちびちびと口に運んでいく。ホットカクテルだからということもあるが、なんだかこの一杯を飲み干してしまうのがもったいなく思えた。
これを飲み終えてしまえば、この時間が終わってしまうような──
「さて、次は何にしようかな……」
ぐっと呷ってしまった。
店長の作るカクテルを次々味わえるというのなら、それほどの喜びはない。
「飲み終わりました。次はそうですね、少しさっぱりしたのがいいです」
「お前……そんな急に呷って大丈夫か?」
「大丈夫です。次をお願いします」
私は元々アルコールには強い方だ。今だってさっきの眠気が嘘のように、むしろ意識がはっきりとした。
だから逆に、忘れたいようなことも忘れられないこともある。
「んー、じゃあネタばらししてザ・スティンガーにしよう。あれは色が鮮やかで、クリスマスには丁度いい」
「あ、いいですね。ツリー型のグラスとかあればいいかもしれない……いや、もしもあっても洗うのが大変そうですね」
「そうだな、私も一昔前に同じことを思ったよ。機能性と見映えの良さが両立してくれればいいんだがな
……」
簡単なカクテルなので、こうして話をしている間にも出来上がっていた。
絵に描いたモミの葉のように鮮やかで、深い緑色だ。
「だから私が思い付いたのは、この程度さ」
店長は細かくしたチェリーをいくつか沈め、水面にひとつまみの金粉をのせた。
「これは……すごいですね、クリスマスツリーみたいです!」
「これなら普通のグラスでも、最近で言うところの『映え』というやつだろう?」
静かに少しだけ揺らすと、深い緑色の中を鮮やかな赤色のチェリーが回っていく。いくつか沈んだ金粉がキラキラと輝き、装飾されたクリスマスツリーのようにきらびやかだ。
「味も、ザ・スティンガー本来の爽やかさにシロップ漬けされたチェリーの甘さが加わって、味の深みが広がっていてとても美味しい……店長、来年はこれも出しましょうよ!」
「半ば思いつきのアレンジだったが、それほどいいなら来年は出してみるかな」
くるくると回していると、子供の頃に見たクリスマスツリーを思い出してくる。
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