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「子供の頃って、無邪気でしたよね。クリスマスツリーにどれだけお金がかかるかだとか、サンタさんの真似事をするのには気力がいる事だって知らなかったし、考えもしなかった」
「……そうだな」
「でもそういうのって、小さい頃ってだけじゃないと思うんです。ちょっとだけ昔の事だって、今から見たらとっても幼稚なこともある」
店長は返事をしなかったが、確かに私の話を聞いていた。むしろ邪魔をしないために言葉を塞いでいるのかもしれない。
「……私、それこそ小さい頃から仲良しだった友達と、喧嘩したんです。
小さな喧嘩っていうのは幼い頃からしてきたんですけど、今回言う喧嘩っていうのは大きくなってからの事で……つい最近の事なんです」
「いつだったか、目を腫らして仕事に来た日の事か?」
そう、私はそれでも仕事に来た。
お金だとか仕事配分だとか現実的な問題もあったけれど、精神的にもどこか拠り所が欲しかったからだ。
「絶交って言われたんです。その言葉もやっぱり、小さい頃にも言われたことはありました。けど……大きくなって、色んな事を知ってからの絶交がどういう意味なのかは、すぐにわかりました」
おふざけだとか、もの知らぬ頃の絶交ではない。大人になってからの絶交と言うのは、関わりを絶つ、縁を切るという意味だった。
そう気付いた頃には電話も通じず、連絡先も変わっていた。大人になってからの行動力ならば、住む場所さえも変えられる。
「私は、口出しをしすぎたんです。あの人にとって良くないんじゃないかって。甘えすぎたんです。他の人よりも自分を優先して欲しいって。
……自分を出しすぎたんです。どうしてほしい、あれはしないでって。
相手の事、わかっていたはずなのに」
絶え間なく、止めどなく、言葉が溢れていく。
「相手はそれを注意してくれた。それで許してくれた。『今度はダメだよ』って。
でも私は……気付いたときには、また繰り返していました。今思い返せば、親だとか周囲だとか、プレッシャーもあったんだと思う。焦っていたし、息苦しかった。
だからあの人に……助けてほしかった」
止める術もなく、涙が頬を伝うのがわかる。
せめて大切なお酒が濁らないようにと、頭を抱え込む。
「私は……謝りたいと思った。謝って済む問題じゃないってわかっている。あの人がくれた最後のチャンスを、あの人の気持ちを私が無駄にしたってわかってる。
ううん、後から冷静になってやっと気付けた。だから……だから、ちゃんと謝りたいのに……もう、何も届かなくなっていたの」
服の袖がじわじわと湿っていく。
アルコールは既に頭に回っているはずなのに、滲むことなく、自分の惨めさが突き刺さる。
あぁ、こんなこと、店長には関係ないのに───
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