イブの魔法

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「はぁ……」 いったい今日だけで何度目のため息だろうか。 お店の沽券(こけん)にも関わるのでお客様のいない時だけにしているが、それでも隙あらば出てきてしまう。 「らしくないな。どうしたんだ?」 控え室から両手に酒瓶を抱えた店長が現れ、瓶を置いては控え室へと戻る。 ウイスキー、ジン、赤ワイン──ひと通りの種類を運ぶつもりなのだろうか。 手伝おうかと声をかけたが、構わないと一蹴されてしまった。恐らくは、万が一のご来店に備えてなのだろう。 「自分でもわかりません。でももしかしたら……うぅん、きっと年末だからだと思います」 「ほぅ。仕事一筋でも一応、季節感はあるんだな」 「それは逆で、仕事一筋だからです。この季節ならどういうお酒がいいかとか、そういうことを考えていたのが始まりですよ」 辺りを見渡してもお客様の姿はなかったので、グラスを磨きながら店長と雑談を始めた。 「それで、何に思い至ったら今日だけで17回もため息をするんだ?」 「か、数えてたんですか?!」 「思ったよりかは暇だったからなぁ」 そう。今日はクリスマスイブ。祝日だというのに、むしろ平日よりも客足は少ない。それも憂鬱を深めた一因だろう。
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