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「え?」
一瞬だった。
理解が追いつかなかった。
意味がわからなかった。
どうして窓の外に夕夏がいるのか。
どうして逆さまなのか。
どうして微笑んでいるのか。
けれど、一秒後。
なにかが潰れたような、弾けたような。
内臓を引き千切られたかと錯覚するほどの不快な音が、全てを語っていた。
遅れて、外から生徒たちの騒めきと悲鳴が聞こえてきた。
「な、なあ今のって……」
「間宮……」
加藤と坂本も、俺と同じく理解が追いついていないようだった。
「ゆう、か……?」
思考が停止した。
疑問も恐怖も置いてけぼりにして、空白だけが脳内を支配する。
身体が動かなくて、呼吸をするのも忘れて、心臓の鼓動だけが馬鹿みたいに速度を増していく。
「あーあ、死んじゃったか」
つまらなそうに吐かれた天使の言葉が、頭の中で響く。
刹那、世界に亀裂が走った。
亀裂の隙間から、全てを飲み込みそうな黒が覗く。割れた世界の底へ俺は落ちていった。何度も見た光景だ。
視界が暗転し、再び開けた時には。
「俺の、部屋?」
アパートの部屋で、机の前に立っていた。
「セーブポイントに戻ったのさ」
「どういうことだよ。俺はまだ誰も殺してない。それに夕夏が……」
「間宮夕夏が死んだ。これじゃゲームにならない。だから失敗。それとペナルティもね」
天使の言葉をきっかけに、視界が揺らぐ。
鼻からなにかが垂れ、激しく咳き込んだ。
床に落ちた赤色の液体を見て、それらが血だと理解する。
「…………っ!?」
続けて心臓が激しく動悸した。
我慢できず膝から崩れ落ち、胸元を抑える。
「キミの身体も限界が近いみたいだ。まあ、あれだけお構いなしにループして殺していればね」
天使の言葉に耳を傾けている余裕などなかった。
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