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半透明のスキルウィンドウの裏側で、天使がにやにやとこちらを見ている。
「よーく考えな。また間宮夕夏が死ぬところをみたくはないだろ?」
瞬間、つい先ほどの光景がフラッシュバックした。
逆さまの夕夏が落ちていく姿。
思い出すだけで全身が唸りを上げ、胃の中のものが逆流を始める。
飛び降りた、のか?
どうして?
本来なら夕夏の自殺は十二月二十四日のはずだ。
それがなぜこんなに早く実行されてしまったのか。
まずそこから考えなくてはいけない。
大きく深呼吸をして、全身に酸素を巡らす。
頭を冷やし、考える。
単純に考えるならば、俺が干渉したせいだろう。
俺が相談室を開いたことをきっかけに、生徒の秘密という夕夏を追い詰める武器を揃えてしまった。
なら、相談室を開かなければ夕夏の自殺は……
いや、ダメだ。
今は最後にセーブした日付。
つまり、戸島たちを仮面の女から救い出した後だ。
今更、相談室を閉じても関係ない。
(そもそも目的は自殺させないことではなく、犯人を殺すことだしな)
盗聴器を外すか?
これも今更外したところで意味はないだろう。
「くそっ……」
解決策が見つからない。
なにも意味をなさない。
天使の言葉が蘇る。
俺がしてきたこと全てが、否定されているようだった。
「悩んでるなぁ。それにしても、君も可哀想にね。ようやく生徒に信頼されたのに。あのタイミングでメールを拡散されて、おまけに犯人扱いだ。培ってきた信頼もあっという間に崩れ去った。同情するよ」
「同情なんか……」
言いながらあることに気がつく。
タイミング?
拡散のタイミングはなんだ?
今回はわかる。誘拐を俺に邪魔されたから、生徒が全員集まるホームルームの時間を使って拡散した。
じゃあ、あの時は。
俺が戸島を殺したループの時は、どうだった?
夕夏の写真が張り出されていて、俺が坂本に掴みかかったタイミングで、戸島が犯人だと拡散された。
バラすのなら、どうして戸島の写真も一緒に貼っておかなかったんだ?
(そもそも戸島は『本当ならバラさないはずだった』と言っていた。それを条件に登校させられたと)
犯人はバラす必要ができたから、バラした?
つまりそれは————
「俺がしたことは無駄じゃなかった」
繋がった。
犯人への手かがりが。
俺はスキルを選択する。
「それでいいのかい?」
「ああ」
俺は頷く。
犯人を。
「炙り出してやる」
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