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7 . 佐伯姫乃
9月21日。 午前8時30分。
「気を失ってる……保健室に連れて行く」
「わ、私も行きます」
間宮夕夏を抱えた日吉先生が生徒を掻き分け教室を出ていく。
清水茜がその後を追い掛ける。
佐伯姫乃は胸中で溜息を吐いた。
(せっかく自殺の機会を作ってやったのに……当真もなんで助けるのよ)
当真の方を横目で見ると、加藤と染谷に囲まれ、安堵の表情を浮かべていた。
(あー、イライラする)
なぜ夕夏ばかりが彼に助けられるのか。
胸の奥で、不快感ばかりが募っていく。
「あれって飛び降りたことになんの?」
「一応、飛んだし……」
「メール止まった?」
「なんなんだよ、最悪……」
「てか、牧野先生は? 授業なくなんの?」
「上原が牧野先生と付き合ってるってまじ?」
(飛び降りたクラスメイトよりも自分の心配か)
間宮夕夏を心配する声は一つもない。
教室のあちこちから聞こえてくるのは、自身への危害が消えた安堵の声と、噂の真偽を確かめる薄汚れた興味の声だけだった。
(あいつの言う通り、友情なんて脆いものね)
担任の牧野先生もいつのまにか教室かいなくなり、荒れたクラスを治める人間はいなかった。
それをいいことに、2組の生徒も何人か教室からいなくなっていた。
メールで拡散した秘密の中には、交友関係を壊すものもあったし、余計な詮索をされる前に逃げたのだろう。
生徒によっては精神を病んで不登校になるかもしれない。
しかし佐伯姫乃は、哀れにこそ思うものの罪悪感など微塵も覚えていなかった。
全部仕方のないことだ。
自分は約束を守るために動いているだけなのだから。
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