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(当真に伝えるか? 忠告だけでも……)
ポケットのスマホに手を伸ばそうとして、考え直す。
このタイミングで伝えてしまうのはさすがに怪しすぎるかもしれない。
『捕まえる場所は……』
イヤホンから再び日吉先生の声が聞こえてきた。
どうやら坂本当真を誘拐するための詳細を決めているらしい。
(時間と場所がわかれば阻止はできるけど……盗聴を見越して犯人(わたし)を誘い出す気かもしれないしなぁ)
わざと会話を聞かせている可能性も拭いきれない。
(あのお人好しのことだし、仮に本当に誘拐したしても殺しはしないはず)
先日、間宮夕夏を誘拐した半グレグループのリーダーでさえ、あれだけのことをしておきながら殺していないのだ。
あの教師には人を殺せるほどの覚悟はない。
姫乃はそう判断した。
(なら、捕まった当真を助けた方が得ね。心身共にやつれた当真を私が介抱してあげれば……)
「あんな女よりも、私の方が彼女にふさわしいってわかってくれるわよね」
二人の会話は資料室前を通りがかった時に聞いたことにすれば良い。
クラスが荒れていたから、教室にいたくなかった。理由はこれで十分だろう。
当真に伝えなかったのは……『誰を誘拐するかは聞き取れなかった』と『先生がそんなことするなんて信じられなかったから』。
先生の前で泣く演技も忘れないようにしないと。
(当真を危険な目に合わせるのは心が痛むけれど、日吉先生の信頼もさらに落とせるし私には得しかない)
姫乃は恍惚とした表情を浮かべ、呟いた。
「待っててね、当真」
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