9 . 間宮夕夏

2/2

331人が本棚に入れています
本棚に追加
/140ページ
…………………………………… 「なに話って?」     校舎裏に呼び出された佐伯姫乃が、眉間に皺を寄せ問う。 声色からも苛立っていることは明白だった。 「姫乃って私のこと嫌いでしょ?」     そんな姫乃の気分など気にもせず、夕夏は生気のない声で返した。 「はぁ? 当たり前でしょ?」 さらに眉間に皺を寄せ、姫乃は続ける。 「当真は見向きもしてくれないし。なんで当真がアンタなんか選ぶのか理解できない」 姫乃が夕夏を嫌う理由は単純だった。 以前から好意を寄せる坂本当真が、先日夕夏に告白しフラれたからだ。 「あんたなんか顔も見たくないし、できることなら死んでほしいくらいよ」 「うん。死んであげる」 「は?」     夕夏は、諦めたような表情で姫乃に微笑む。      「だから私を、苦しめてよ」 苦しめばいい。 苦しんで死ねばいい。 夕夏の望みはそれだけだった。 任せられるのは自分を恨む姫乃しかいない。 彼女の両親は警察のお偉いらしく、金も権力も人脈もある。 彼女ならきっと、自分をとことん苦しめてくれるはずだ。 苦しんで苦しんで苦しんで苦しんだら。 きっと、この胸の痛みも消えてくれる筈だ。 夕夏は諦めていた。 幸せになんてなれない。 幸せになんてなっちゃいけない。 この痛みが、そう訴えていた。 私は、死ぬべきなんだ。
/140ページ

最初のコメントを投稿しよう!

331人が本棚に入れています
本棚に追加