331人が本棚に入れています
本棚に追加
/140ページ
10.
「だからこれは、全部夕夏が始めたの!」
全てを話し終えた後。
椅子に拘束された佐伯が、最後に声を荒げた。
「先輩のバッシュを切り裂いたのもあいつだし、メールで孤立させるように指示したのもあいつ!」
助かりたい一心からか、質問するまでもなく佐伯はしゃべり続けた。
「誘拐したり、盗聴器を仕掛けたのは私ですけど、全部夕夏との約束のためなんですって。先生が助けるから夕夏も揺らいだみたいだけど、あいつは結局不幸になることを選んだの!」
後半の言い訳は、ほとんど頭に入ってこなかった。
もはや全部どうでもよかった。
それよりも。
「じゃあ、犯人は……」
俺が殺すべき生徒は。
「そう。間宮夕夏だよ」
振り返ると、天使が満面の笑みを浮かべていた。
まるでこの時を待ちわびていたように。
「キミの望みは生き返らせること。でも、間宮夕夏の望みは死ぬことだ」
俺の望みと、夕夏の望みは違う。
「生き返らせることは、彼女にとって本当に幸せなのかな?」
死ぬことが、望み?
じゃあクリスマスの日に夕夏が飛び降りたのも。
前のループで飛び降りたのも。
全部、夕夏自身が望んだこと?
「さあ、君はどうする?」
「俺は……」
夕夏を生き返らせるには、夕夏を殺さなきゃいけない。
俺の手で。
必ず助けるって、約束したのに。
幸せにするって、約束したのに。
俺にできることは────
「ねえ、もういいでしょ! 早くこれ解いてよ!!」
叫ぶ佐伯を置いて、俺は工場の外へと向かう。
車で学校に戻るためだ。
「ねえ、聞いてんの! 置いてく気? ふざけんなクソ教師!」
こいつは置いていく。
これ以上こいつに掻き乱されるわけにはいかない。
「決めたかい?」
「ああ」
悩んだって、迷ったって。
もうどうしようもないんだ。
「全部終わらせる」
最初のコメントを投稿しよう!