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夕夏がフェンスを握ったその瞬間。
『時間停止』
全ての時間が止まった。
「本当は、お前を死なせないために使うつもりだっんだ」
もしも犯人を見つけ出せなかった時、飛び降りようとするお前を助けるために。
でも俺は今、お前を殺すためにスキルを使っている。
「ごめんな、夕夏」
これは俺のエゴだ。
「苦しくても、幸せじゃなくても……俺はお前に、生きて欲しい」
ポケットから取り出したナイフを取り出し、後ろから夕夏を抱き締める。
躊躇うわけにはいかない。
時間が止まっているうちに。
痛みを感じないうちに。
全てを終わらせなきゃいけない。
これ以上苦しませないためにも。
「────っ」
ナイフの先端が、柔らかい肌を突き刺し、皮膚の中へ埋まっていく。
刃と皮膚の隙間から、濁った血が溢れ出した。
深く深く、奥へ刺すため力を加える。
刃を通して感触と熱が伝わってきた。
俺は今、妹を殺している。
この全てが止まった世界で。
せめてもの救いは、顔が見えないことだった。
「……っ」
五秒が経過し、時間が動き出す。
制服を赤く染め上げるほど、既に夕夏の首から大量の血が溢れていた。
「え?」
夕夏はなにも理解できていないようだった。
どうか、そのまま。
なにもわからないままでいてくれ。
「なんか、あたたかい……」
力なく、夕夏が呟く。
「ごめんね。おにい、ちゃ…ん……」
「────おやすみ、夕夏」
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