10.

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夕夏がフェンスを握ったその瞬間。 『時間停止』 全ての時間が止まった。 「本当は、お前を死なせないために使うつもりだっんだ」 もしも犯人を見つけ出せなかった時、飛び降りようとするお前を助けるために。 でも俺は今、お前を殺すためにスキルを使っている。 「ごめんな、夕夏」 これは俺のエゴだ。 「苦しくても、幸せじゃなくても……俺はお前に、生きて欲しい」 ポケットから取り出したナイフを取り出し、後ろから夕夏を抱き締める。 躊躇うわけにはいかない。 時間が止まっているうちに。 痛みを感じないうちに。 全てを終わらせなきゃいけない。 これ以上苦しませないためにも。 「────っ」 ナイフの先端が、柔らかい肌を突き刺し、皮膚の中へ埋まっていく。 刃と皮膚の隙間から、濁った血が溢れ出した。 深く深く、奥へ刺すため力を加える。 刃を通して感触と熱が伝わってきた。 俺は今、妹を殺している。 この全てが止まった世界で。 せめてもの救いは、顔が見えないことだった。 「……っ」 五秒が経過し、時間が動き出す。 制服を赤く染め上げるほど、既に夕夏の首から大量の血が溢れていた。 「え?」 夕夏はなにも理解できていないようだった。 どうか、そのまま。 なにもわからないままでいてくれ。 「なんか、あたたかい……」 力なく、夕夏が呟く。 「ごめんね。おにい、ちゃ…ん……」 「────おやすみ、夕夏」
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