10.

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夕夏の身体から力が抜けていく。 やがて呼吸音も聞こえなくなった。 世界に亀裂が走る。 足下も灰色の空も、全てがひび割れていく。 割れた世界の先は、いつもの黒ではなく真っ白な世界だった。     「おめでとう、間宮朝春」 血塗れの夕夏を抱き締める俺の前に天使が姿を現す。 「キミが本当に妹を殺せるとは思わなかったよ。最後は逃げなかったね」 逃げるわけないだろう。 「安心しなよ。約束通り、間宮夕夏は生き返らせてあげる」 「『きっかけ』は、夕夏から消えるんだよな」 天使が頷く。 「ああ。最初のきっかけ、ニュースを見た記憶は消える。彼女は幸せを苦痛に感じることなく、君が知っている間宮夕夏として生きる」 「そうか…」 「でもわかっているだろう? こんなのは一時凌ぎに過ぎない。ニュースじゃなくたって、似たきっかけで彼女の心が壊れる可能性だってある」 「わかってるさ、そのくらい」 「それでも、生き返らせるかい?」 「ああ」 「彼女が死を望むとしても?」 「違う」 「夕夏は、生きたくないだけだ。死にたいわけじゃない」 『強制自白』で質問した時、夕夏は死にたいとは言わなかった。 生きたくない。 あくまでもそれが夕夏の本音なんだ。 「人は、自分の不幸なんざ望めやしないんだ。死にたくないなら、俺は夕夏に生きてほしい」 生きないことは、死ぬことと同義じゃない。 生きなくないから死ぬのは、逃避一つに過ぎないのだから。 「そっか。キミがいいなら、いいさ」 天使が微笑む。 「楽しませてくれて、ありがとう。」 いつもの、指を鳴らす音が聞こえた。 同時、世界が闇に包まれた。   
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