エピローグ

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「……ちゃん……」     声が聞こえる。 懐かしい声だ。 「…ちゃん……お兄ちゃんってば!」 肩を揺すられ、ようやく気がつく。 目を開けると、夕夏が心配そうに俺の顔を覗き込んでいる夕夏。 「夕夏……」     反射的に抱き締める。 強く強く抱き締める。 偽者でも幽霊でもない。 たしかに夕夏だった。 「わっ! なに! ど、どうしたの?」 驚きながらも抵抗はしなかった。 困惑というより、心配しているみたいだ。 溢れそうになる涙を堪え、身体を離し周りを見渡す。 場所は葬式の日に訪れた公園──天使と出会った公園だった。 辺りは暗く人の姿もない。 時間も同じくらいだろうか。 「今、何日だ?」 「十二月二十七日だけど……」 訝しみながら夕夏がスマホで確認をする。 葬式の日だ。 だが夕夏は生きてるし、俺も喪服じゃなく私服だった。コートだけは同じだ。 「どうしたの? 買い物の帰りに、懐かしいねって公園寄ったらいつの間にかベンチで寝ちゃうし……大丈夫? 疲れてる?」 「あ、いや……」 俺が座っていたベンチには買い物袋が置いてあった。 どうやらそういうことになっているらしい。 「なあ夕夏。俺に隠し事してないか? 変なメールがクラスに広まってたり、いじめられていたりとか……」 「メール? いじめ? 何言ってるの?」    夕夏が首を傾げる。 とぼけているわけではなさそうだ。 全部なかったことになっている。 ニュースを見た記憶もちゃんと消えてる。 「ほら、早く帰ろ。大掃除に年越しの準備に、やることはたくさんあるんだから」 ベンチの上の買い物袋を掴み、反対の手で俺の手を引く。 刹那、胸部に強い痛みを覚えた。 心臓を握り潰されたような感覚に、思わずよろめく。 「大丈夫?」 「あ、ああ……立ちくらみがちょっとな…」 ループの代償、寿命はしっかり奪われているらしい。 最後のスキル選択の時、天使はラストチャンスだと言っていた。 一回の失敗で奪われるのは寿命十年。 ということは、どれだけ長くても俺はあと十年は生きられない。
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