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半年前のことだ。
俺たちは十七時から二十二時までの夜間のシフトに入ってる。
もうあと十分で上がる時間って時に、倉持さんがなにをとちくるったのかアメリカンドッグを三つも揚げ始めた。さっき売れて在庫ゼロで揚げるのはわかるけど、晩御飯時のピークならまだしもこんな夜中にだ。ストックは一個あれば十分。なんでかな? って思っていたら、バックヤードを出るときに、「俺レジ寄るから待ってて」とレジにその長いコンパスを向ける。
俺は深夜帯のバイトメイトに「お先です」と挨拶をして、店の前で倉持さんを待った。
「お待たせ、お待たせ。はい、仲やんの分ね」
袋に入ったアメリカンドッグを突きつけられる。
「あ、ありがとうございます」
「そこ! そこ座って食べていこ」
店のわきにあるイスとテーブルをピッピと指さす。座って紙袋からアメリカンドックを出すなり、ケチャップマスタードを付けてやると容器を差し出してきた。
「仲やん、マスタード平気?」
「あ、……まぁ」
俺の浮かないあいまいな返事を察してくれる倉持さん。
「そっかぁ、これパキッて出すやつだ」
「あ、いいっすよ。なくても」
そう言って食べようとしたら、倉持さんが「あーあー」と大きな口を開ける。
「なんなんです?」
「俺に任せておきなって」
倉持さんはケチャップマスタードの容器をパキッと折ると、マスタードの方をぶらつかせケチャップの方だけを親指で押した。なみなみと線を描きながら俺のアメリカンドッグにケチャップをかける。
「どうも」と頭を下げると「くるしゅうない」とニッコリ。
倉持さんは自分のアメリカンドッグにケチャップマスタードを三個分もかけて口に頬張った。
食べてる間は今日来たお客さんの話とか携帯ゲームの話とか、そんな他愛もない雑談をして「ご馳走様~」と言うと「棒捨ててきなよ。あ、俺のもお願い」とゴミを入れたコンビニの袋を渡してきた。
まだお喋りするつもりなのかな? 別に急いでないからいいんだけど。
袋を受け取り、自分のも袋に入れて店の正面にあるゴミ箱に捨てて戻る。そこにはニコニコ顔の倉持さん。テーブルの上にプレゼント用にラッピングされた袋を置き、両手で支えながらデデンとアピールして持っている。俺は直ぐにピンときた。
「あれ、もしかして誕生日プレゼント?」
「そーそーまだちょっと早いけどね。お誕生日おめでとう~」
「ありがとう! 開けてもいい?」
「開けて開けて」
袋の中身はカバンが入っていた。ワンショルダーのバッグだった。
「わ、カバンだー」
「まえ、欲しがってたでしょ? 小さめのバッグ」
「うんうん。携帯と財布ぐらいが入る丁度いいやつが欲しかったんだよね! ありがとう!」
「どういたしましてぇ~」
「倉持さんの誕生日っていつなの? お返ししなきゃ」
「えー、お返しなんていいよお。誕生日もう終わっちゃったしね」
「でも、教えてよ。来年に渡すから。バイト辞める予定とかないでしょ?」
「うん。まぁ、じゃあ、五月五日」
「こどもの日? 覚えやすいね」
「だよね。でも、全然気にしなくていいからね。これは俺がプレゼントしたかっただけだから。プレゼントってさ、相手のこと考えて選んでる時間がすごく楽しいじゃん? もちろん、今もすごく楽しいんだけど」
そう言って顔を赤くし、後頭部へ手をもっていく倉持さんはテヘテヘしててすごくかわいかった。
うん。だから、いつもお世話になってるから……ほんのお礼って言うか……ね。まだ誕生日はずっと先なんだけど、クリスマスって機会だし。倉持さんイベントとか大好きっぽいし。一足お先にね、用意させていただきました!
すごくね、悩んだの。プレゼント。
だってさ、相手は同じくらいの世代で男だからさ、女の子だったらアクセサリーとか、お花とか、お菓子とか。ベタだけどお堅いところ押さえてたらそれでOKでしょ? でも、男はね。難しいよ。
だから二ヶ月も前から悩みに悩んだ挙句、俺の選んだお品は……俺の好きな曲のCD。冬にはぴったりの曲なんだよね。エンドレスで聞いてたなぁ〜。だからオススメがてらどうかな? って。倉持さんもこのアーティストのこと好きになったら一緒にコンサート行ったりとか、すごく楽しそうだし。
あとね。レザーの手袋。羊革で柔らかくって内側はファー素材。風は通さないで保温はバツグン。倉持さんはスクーターに乗ってるし、今ハメてるゴワゴワのゴツイ手袋はもうだいぶ痛んできてるみたいだったし。
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