僕らのクリスマス

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 風がビューッと吹き付ける。  俺は寒さに首を竦めた。コンビニ前の信号が青に変わって半分ほど渡った時、コンビニの入口から私服姿の倉持さんが出てきた。  なんで私服?  倉持さんと俺のシフトはさっきも言ったように一緒なんだよ。だから、倉持さんもこれからバイトのはずなのに。  俺は足を速めて信号を渡り切った。半ヘルのメットを被り、スクーターを出そうとしてる倉持さんに駆け寄り声をかけた。 「倉持さん! 忘れ物?」  倉持さんは俺を見ると白い息をふっと吐いて、口元だけで微笑んだ。そのまま単車を押して行ってしまう。  急いでるのかな? やっぱ忘れ物?   無視されたわけじゃないけど……さっきまでの浮き足立ってた気持ちが一変。胸のあたりがなんだかモヤモヤする。 「おはようございまーす」 「おう! おはよ」  レジ前を通り、店長に挨拶してバックヤードへ入った。仲谷と書かれたロッカーを開ける。コートとカバンを入れ、代わりに制服を取り出した。ロッカーの扉を閉めて目に入った隣のロッカーに書かれた倉持の文字。  ふっーってため息が出た。  着替えていると店長が入ってきた。 「店長、倉持さん帰っちゃったけど、今からっすよね?」  パソコン画面で出勤登録をしながら話しかけると、にゅっと背後から手が伸びてくる。 「ハイ、これ」  手渡されたのはサンタの帽子。 「なんすか?」 「何ってサンタ帽だよ」 「いや、それは分かりますけど……」  今日が二十四日だから被れってんでしょ?  それももちろん分かってますとも、そうじゃなくて俺は倉持さんの話を聞きたいんだよ。  店長の手からサンタ帽子をピッと取り上げて、被りながら俺はもう一度本題を切り出した。 「倉持さんさっき帰っちゃったんですけど」 「あー、倉持な。急にバイト辞めることになって荷物引取りに来たんだよ」 「えっ」 「あ、ロッカーの名札お前取って捨てといてくれ」  店に戻る店長が振り向きもせず言った。  バイト……辞める? 倉持さんが?  俺は頼まれごともせずにそのまま店長の後を追った。 「ちょっと、店長。俺そんなことなにも」 「んとに、急なんだから。困っちゃったよ。ホントは別の日に入って貰う予定だった新人に急遽連絡入れて大変だったよ。今日からその新人来るからな。今度はお前が先輩な。世話係……」 「すんません、俺早退っ!!」 「はぁ!? そ! 早退って! ちょっ! 仲谷!」  店長を押しのけ、レジから出た。店長の大声を背中に受けながら。俺はバイト着のまま、カバンも持たずにコンビニを飛び出した。 「キャ!」 「ごめんなさいっ!」  コンビニに来たお客にぶつかったけど、そのまま走る。  頭に浮かぶのはついさっき見た、倉持さんのお愛想全開の微笑み。  だって、そうだよ。今思えば、目がすごく寂しそうだった。  何も言わなかった。ただあんな顔して……。  もうわけがわからなかった。  なんで!? なんでだよ! 辞めるって! 俺なんも知らねーし、なんも聞いてねーーーよ!  辞めないって言ったじゃん! 来年って言ったじゃん! 俺が先走ってプレゼントなんて用意しちゃったから? 来年まで待たなかったから?  悔しい、寂しい、腹立つ、悲しい。  そんな攻撃的な感情の中に混ざるのは胸が抉られるような痛みの感情。でも、同時に頭に蘇るのはあの人のいつもの笑顔。  会いたい! 会いたい! 会いたい!  お愛想なんかじゃない、本当の全開MAXの笑顔。  もう一度俺に見せてよっ!  ずっとずっと、ずっとずっとずっとずっとずーーーっと見ていたいんだ!
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