飴よりも柔らかい愛

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 そう、全ての原因は路地裏と黒猫、それから私の好奇心だ。気が付けば、見慣れぬ場所に放り出されていた。とかく、一刻も早く帰る必要がある。こういう異界に立ち入った人間は、御伽草子では妖怪に食われるものと相場が決まっている。あの話を読むと、それならば誰がその話を聞いたのかと疑問に思うが、今は考えている場合ではない。  何と無しに歩いてみる。心なしか、身体が軽い気がする。試しに飛んでみると、いつもより高く長く宙に滞在できた。明晰夢というやつは、きっとこんな感じなのだろう。私は経験したことがないから、断言はできないが。  それにしても不気味なところだ。地面も綿のような感覚だし、景色も自然が極端に少ない気がする。かといって、人工物が多いというわけでもない。プレハブ小屋のようなものが点在しているが、人も疎らだ。 「君、どうしたの?」  数刻ばかり歩くと、優し気な雰囲気の男性と出会った。眠たげな(まなこ)で、ひょろりとした体躯だ。異世界人ではあるが、見た目は変わったところが見られないし、話している言語も同じだ。聞こえた音と唇の動きが同調していないが、言葉が通じているのだから気に留める必要はないだろう。 「貴方にとっては信じられない話だとは思うが、私は異世界から来た。元の世界に帰る方法は知らないだろうか」 「異世界から? ふぅん。帰る方法は知らないよ。逆に考えてみてごらんよ。僕が君の世界に迷いこんだとして、君は僕が元の世界に帰る方法を知っているの?」 「なるほど、道理だ。ではこの世界について知りたい。私の世界では異世界に行くとされる方法は無数にある。この世界でそれに当たることを行えば、元の世界に戻ることができるかもしれない」
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