氷雪繁栄圏 プロローグ

5/33
前へ
/99ページ
次へ
 座席に座ると、集めている安物のタグが音を鳴らした。  鉄とオイルを消す消臭剤の匂いが、肺に溜まる。  薄暗い室内をモニターが明るく照らし、先ほどまでいた雪景色を画面の向こうとするかのように、暖かい空気が入り、重厚な機械音が響く。  音が人より良く聞こえる私は、その音が嫌出でうるさいので迷わずヘッドフォンを装着した。  それだけで、ノイズは別世界のように聞こえる。  「どうする?って?」  「”いらぬお節介をかくか。それとも、荷物を増やすか。……ま、おじさんはどれでもいいんだけど。”」  ワタシが何をしようと思っているのか分かっているように、小豆色の機械は答える。  雪山で目立つほどに明るかった機体は、先ほどの吹雪にさらされ、ユキにまみれて凍ったアイスのように白くなっている。それでいてずんぐりとした体形をしているから、私は彼を小豆バーと勝手に命名している。だが、彼はその名称が嫌いだ。…嫌、彼は私が名付けた名前が嫌いだ。
/99ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加