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「ドライじゃない近藤さんは、私だけが知ってる近藤さんです。えっと……か……彼女の特権?」
語尾を上げて誤魔化すようにふにゃりと笑った。自分で言っていて恥ずかしい。
「あれ? でも……」
ふと浮かんだ考えに、私は口元に人差し指を当てる。そのまま視線を宙に持ち上げると、絵やポスターは勿論、壁掛け時計だって見当たらない白い壁が目に入った。
「佐々木さんも知って……きゃっ!」
上げていた手を乱暴に掴まれた。驚いて視線を戻すと近藤さんは下を向いている。オフモードの落ちた前髪に邪魔されて、肝心な表情は見えなかった。
「喋るな!」
俯いたまま発せられた低い声に息が止まる。先ほどまでの柔らかな雰囲気から一変、文字通りスーパードライな彼の言葉に部屋が一瞬にして凍り付いた。
「え……」
(な……んで?)
「西園はもう喋るな!」
表情の見えない彼から繰り返された否定の言葉。
(なんで急に?)
彼の家に招かれて、抱き締められて、キスをして。今だって一緒に朝ご飯を食べたのに。
(私、何かした?)
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