甘やかな吐息

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「もた……?」 「もう!」 「きゃっ」  強い力で手首を引かれてニットの胸に倒れ込んだ。一気に濃くなった彼の香りに目の前がチカチカする。 「西園……」  耳元に落とされた吐息混じりの低い声が私の肌を撫でた。反対側の耳元には手が回されて、あの長い指がピアスごと耳たぶを弄ぶ。彼の指が動く度、彼の吐息がかかる度、自分の髪の毛がふわふわと揺れてくすぐったい。 「好きだ」  耳の中に直接注ぎ込まれた低い声に全身が粟立った。 「……私も」  辛うじて返した言葉は恥ずかしいくらいカラカラに掠れている。 「私も……好きです」  白いニットが僅かに震え、彼が笑う気配がした。 「西園……」 「…………」  甘すぎる。  全然ドライなんかじゃないんだから。
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