甘やかな吐息

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 俺も手伝うという申し出を丁寧にお断りしてキッチンで洗い物をしていると、リビングから近藤さんが「なあ、西園」と声を掛けてきた。 「はい。なんですか?」  手を止めずにキッチンから返事をする。 「これ。…………て良いか?」  近藤さんの低い声はシンクに落ちる水の音に掻き消され、大事な部分が聞こえなかった。私は水を止めもう一度訊く。 「ごめんなさい。聞こえませんでした」 「プレゼント、開けて良いか?」  近藤さんの声と一緒にがさりと音を立てたそれは、プレゼントの紙袋だった。彼に絶対に似合うと思って買った紺色のマフラーと手袋が入っている。 「ちょっと待ってください。私も一緒に」 「…………分かった」 (ふふ。素直)  少しだけ残念な響きを滲ませた近藤さんの返事が可愛らしくて、私は急いで残りの食器を洗った。
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