甘やかな吐息

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(ほんの数ヶ月前まではスーパードライだなんて呼んでたのに)  口を押さえていた手をゆっくりと伸ばし、人差し指で彼の眉間のシワをなぞる。そのままそれを自分の眉間に持っていき、ふにゃりと笑った。 (彼女に……なっちゃった)  掛けられた羽毛布団からも、敷かれたシーツからも近藤さんの匂いがして、もしかしたら自分からも同じ匂いがするかもしれないと、嬉しいような恥ずかしいような不思議な気分になる。同じ料理を食べて、同じ車に乗って、同じシャンプーを使って、同じベッドで眠って……。 「…………」 (このままここにいたら変なことばっかり考えちゃうわ)  近藤さんを起こさないようそっと起き上がりベッドから出る。借りたパジャマは袖も脚も長くて、くるくると何回も折り返していた。 (脚、長いもんね……って)  顔を見ていなくても頭は近藤さんでいっぱいだ。どんな小さなことでも近藤さんに結びつけて考えてしまう。  ――これ、西園が作ったのか? 美味いよ!  ホワイトシチューを前に目を輝かせる近藤さんを想像する。仏頂面がデフォルトだから笑顔になったときの破壊力ったらない。 (現実でも言って貰わなきゃね)  私は自分の洋服を拾い上げ、そっと部屋を出た。
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