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朝からシチューは重いかなと思ったけれど、近藤さんは「美味いよ!」とおかわりまでしてくれた。たっぷりと作ったはずなのに、お鍋も底が見えている。
「近藤さんが美味しそうに食べてくれたので、私も作った甲斐がありました」
「美味いもんは美味いからな」
「佐々木さんには負けますけど」
ふふと笑うと近藤さんは「あいつはプロなんだから美味くなければ駄目だ」と口角を下げた。
二人掛けのソファに隣り合って座っている。高さの低いテーブルには空になった食器が並んでいた。結婚式の引き出物だという柿柄の皿は、クリスマスにもシチューにもちょっと違和感があったけれど、そもそもほとんど食器が無いこの家では唯一に近い選択肢だった。
私は苦笑して続ける。
「近藤さんって佐々木さんに厳しいですよね。お友達なのに」
近藤さんは正面に向き直って片眉を吊り上げた。
「友人だからだ。これくらいが丁度良い。向こうがちゃん付けで呼んでくるんだから、こっちだって相応の対応をしないとな」
「そうでした。近藤ちゃん、でしたね」
――いらっしゃい。近藤ちゃん。
日に焼けた太い腕、豪快な笑い声。近藤さんと同級生だという佐々木さん。タイプは全然違うのにとても仲が良い二人。
「西園までその呼び方をするな。あのがさつな男の顔を思い出す」
不機嫌そうに言って、中指で眼鏡のブリッジを押し上げた。
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