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正面を向いてくすくすと笑っていると、隣からゴホンと咳払いが聞こえた。
「西園」
「はい?」
笑顔のまま近藤さんを見れば、まだ眉間にシワを寄せている。けれど目元はほんのりと赤かった。
(これは不機嫌な顔じゃない)
近藤さんは片手で顔を覆うようにして眼鏡を直した。
「西園はまだ誤解してるみたいだが、俺はわざとスーパードライを演じてるんだからな」
「あはは。分かってます。本当の近藤さんはスーパードライなんかじゃないですから」
近藤さんの方に身体を向けるようにして、斜めに膝を揃え直した。サラリとサイドに流した前髪、ノンフレームの眼鏡と切れ長の瞳、真一文字に引き結んだ唇。
「今だってちょっと笑ってます」
ですよね、と首を傾けると、細い瞳がくるりと丸められた。
「…………」
職場で会っているだけじゃ分からない、本当の近藤さん。舐められないようにと幾重にも重ねられた彼の鎧は、会う度に一枚ずつ剥がれて落ちていく。
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