甘やかな吐息

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 ほんのりとした温かさに覚醒した。高いところに見慣れない天井が広がっている。口元まで被った羽毛布団からは彼の匂いがした。 (…………)  規則正しく聞こえてくる寝息にもぞもぞと顔を横に向ければ、そこには目を閉じた近藤さんの顔がある。眼鏡もなくて、長い前髪が落ちていて。 (ひげも……)  近藤さんでもひげが生えるんだ、なんて当たり前な感想を持ちながら暫くその顔を眺めた。  きりりと太い眉、優しく閉じられた瞳、眉間に刻まれたシワ。いつもあんな仏頂面をしているからうっすら残ってしまっている。  ――わざとそうしてるんだから。  そんな風に口角を上げた顔を思い出し、くすりと笑った。 「んん……」 (いけない。起きちゃう)  小さく呻いた近藤さんに、私は慌てて自分の口を覆う。 「…………すぅ」  再び聞こえてきた寝息に、ほっと胸を撫で下ろした。
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