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翌日、早速人形が届いた。
早いとこ試して、早く返したい、というのが正直な気持ちだった。
普段より早めに仕事を切り上げ急いで帰宅すると、まもなく訪れた宅配業者の中年男性に「重くてすみません」と謝りながら受け取ったそれを、丁寧に開封する。
そうして現れた人形を見て、思わず発した言葉は「すげー!」だった。
身長は百七十センチよりすこし大きい、というところだろうか。チャコールグレーのラフなスウェット姿がまったくそぐわない、目を瞠るほどのうつくしい顔立ちの男だ。
「初めての相手が外国人って言うのはさすがにハードルが高そうだから、日本人っぽくアレンジするよ」と城が言っていたように、すこしくせのあるやわらかな黒髪に、瞳も濃い茶色だが、高くすっと通った鼻梁や薄いくちびるは、確かにあの絵の男の面影があるような気がする。
直視すると視線が合ったようにも思えるし、微妙に逸れているような気もする。不気味さを感じないよう、微妙な角度に調節してあるらしい。
見つめているうちに、どうも落ち着かない気分になって、こちらの方から視線を逸らしてしまう。
「……人形相手に、なんだよ」
そうつぶやきながら、気恥ずかしさを振り払うように頬に触れると、まるで人肌のようになめらかでやわらかな感触に、咄嗟に手を引っ込めた。
大きく深呼吸した後、そっと指先で触れてみる。
外気に触れたからか、あたたかさは感じないが、かといって無機質な温度でもない。試しに服の上から脇に触れると、確かにはっきりと温もりが伝わってくる。
皮膚はどんな素材なのだろうか。温もりの制御はどういう仕組みになっているのだろう。職業気質で、どうしてもそういうことが気になってしまう。いっそ全部分解してしまいたい衝動に駆られて、ふと人形の顔を見ると、まるで「殺さないで」と、怯えた瞳で俺を見つめているような気がして、我に返った。
「取って食う訳じゃないんだから、そう怖がるなよ」
頭では人形だと分かっているが、どうしても人間としか思えない。
いつまでも恥ずかしがるのも癪だから、この際思い切って普通の人間と同じように接しようと決意して、人形を見つめると、ほっとしたのか、最初見たときと同じ、優しい顔立ちに戻っていた。
その表情は、微笑んでいるようにも見えるし、淋しそうにも見えて、どこかで見覚えがあるような気がした。
誰だろうと思い巡らせて、真っ先に思い浮かんだ顔に、思わず「あっ」と叫んだ。
見覚えどころでは無かった。むしろ見慣れていると言ってもいい、よく知った顔。
「……嘘だろ」
一度意識してしまえばもう、人形の顔は、城にしか見えなくなってしまう。
頭がくらくらとしてきた。よりによって、城に似た男の人形と一夜を過ごすだなんて。
「……ちょっとここで休んでおけよ。俺は風呂に入ってくるからな」
そうつぶやいて、人形をソファに座らせると、クローゼットからパジャマと下着を取り出し、逃げるように風呂場へと向かった。
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