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それからしばらく仕事に没頭する日々が続き、城もまったく姿を現わさなかったので、人形のことなどさっぱり忘れていたある日のことだった。
職場のパソコンに、城からのメールが届いた。
『例の人形、できたから。日付と時間指定で送るけど、いつがいい?』
メールを読んで、思わず「はあ?」と叫んでしまった。慌てて電話を掛ける。
「だから、必要ないって言ったろ」
『ちょっと試してくれたらそれでいいから。だいたいお前こそ、なんでそんなに拒否するんだよ』
「……とにかく、こっちに顔出せよ」
『了解、今からでもいい?』
それから三十分も経たないうちに、城は俺の研究室へと現れた。城の工房は大学から徒歩圏内にある。にも関わらず、「トップシークレットだから」と言って、俺を入らせてくれたこともない。
要らないと言い張る俺にも負けない根気強さで、「すぐ使えるように設定して送るし、一晩だけでもいいから」と強請ってくる。
「無理だよ、……人形となんて」
「今回の人形は、今までどの人形も持っていなかった、体温と脈を感じられるようになっているんだ」
譲らない俺を説得するように、城は人形に関する説明を始めた。
身体から感じる脈動や、ぬくもりで、人肌と触れ合う時と同じ心地良さや安心感を与えたいのだと、城は言う。
「長い間試作を重ねてきて、完成には近づいては来ていると思う。……ただ、何かが決定的に足りないんだ。それが分からなくて、日々悶々としてる」
研究者が考察に没頭する時と同じ顔で、城は続けた。
「だから、たとえセックスが無理だとしても、添い寝だけでもいいから、試して欲しい。実際に触れてみて、お前がどんな風に感じたのか、率直に教えて欲しい」
「……分かったよ、添い寝だけでいいなら」
渋々そう承諾したのは、城の並々ならぬ熱意に、研究者としてのたましいが揺すぶられたからだった。
作っているものがものだけに、主要なメディアに取りあげられることはないが、ネット上では、城の作る人形は国内外問わず熱い視線を集めているらしい。
しかも、その人形を、まだ若く見目麗しい男がたったひとりで制作しているというのだから、注目されないはずがなかった。
大学時代、俺と同じロボット工学を専攻していた城だから、作る人形は当然ロボット、いわゆるセクサロイドだと思っていたが、城は「それはない」と言い切った。
「俺が作るのは、あくまでも究極のラブドールだよ。身体のパーツがみずから動いたり、求めてくる機械なんて、考えただけで恐ろしいだろ」
「それこそ不気味の谷に落ちる、最も端的な事象かも知れない」
「動かない、表情も変えない、完璧な受け身の身体に、いかにたましいを宿すか、そこをとことん追求するのが楽しいんだ」
大学時代、泊まり込みでロボット製作に明け暮れていたあの頃と同じ、キラキラとした表情でそう話していた。
だから、城が選んだその仕事を、理解しがたいとは言え、たった一度でも否定したことは無かった。
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