昭和大学生 夏子は謎解き男子に振り回される

初恋とはしか事件

１

　サラブレッドが来た！
　上野の大きな喫茶店『右上軒』で、ウエイトレスのアルバイトをしている私は、思わず目を瞠った。彼の名前は村井昭彦。彼は店に入って来て、二人がけの席を見つけるとサッと腰掛け、脇にあるメニュー表を手に取った。
　私と同じ私立J大学に通う、経営学科の一年。
　私は英文学科に通う、大学生。お小遣いくらいは自分で稼がなければならず、ここの喫茶店でアルバイトをしている。
　学部が違うけれど彼は同じ学年で、かなり有名人だ。
　大手の製菓会社『M製菓』の社長の息子、御曹司だから、同じ学年で違う学部の人からも、彼は密かに『サラブレッド』と言われていた。
　彼に憧れている女子学生は多かったが、誰も彼と付き合いたいと言う者はいなかった。婚約者がいると、専らの噂だから皆、諦めていた。