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喫茶店
この春、俺は無事大学に合格することが出来た。
やっとエマと気楽にデートができると思ったら、彼女の期末テストに付き合う事になって、高校の近くの喫茶店に二人でいる。
「これで何とか数学は平均取れると良いな」
「……自信ないです。センパイと同じ大学行けないかも」
エマがテキストを下敷きにテーブルに突っ伏してボヤく。何も同じ大学の同じ学部を目指さなくても良いような気がするが、それが彼女の今のポテンシャルになってる。どっちにしろ、進学するなら全体的に底上げしなきゃならない状況だ。
「俺が勉強のマネージメントしてやるから、ちゃんとやれ」
「……彼ピ、鬼」
「鬼じゃない。何か人参ぶら下げる?」
エマの手の中のシャーペンがピタッと止まる。
「ヒヒーン、ブルルルル〜」
と、言ってエマはまた手元を動かし始める。いやもう、この子なんなの。長い時間一緒に居ると、おバカが分かるというか……付き合い始めて騙された気もするけど、確実に沼にはめられてる。
中毒性強過ぎ。
エマと向き合って、俺は腕組みをしてエマを煽る。
「期末テスト終わったら、結果によってデートの行き先を決めるし、俺が持つ」
「……彼ピ、天才」
「はいはい、俺、天才」
俺は、スクエアな付箋にデート先候補を幾つか書いてエマの前に並べる。
公園
カラオケ
映画
水族館
アミューズメントパーク
コンサート
……あれ?俺、あんまりレパートリーの発想が無い。これ、俺が困らないためにデートコースの優先順位をエマに選ばせるだけじゃないか。まぁ、何か埋め合わせすれば良いか……。
エマが優先順位を決めて、俺がそれにノルマを書き込む。
「こんな感じかな? 」
まずまずだと思う。これでテストに集中出来るかな?と、一息つくと、エマが付箋をもう1枚剥がして新しいノルマを設定し始めた。
[全教科平均より20点超え]
「いや、無理だろう……」と、声を漏らしたら、エマが俺の目をチラッと見上げて行き先を書き込む。
[温泉]
「……(ちょっと待て)」
「センパイ、予約しといてください」
エマが強気を出してきた。
今から春休みに宿を取るって大変だと思うんだけど、多分。高校も2年にもなれば平均点そのものは低いが得点は簡単に上がるもんじゃない。もう、テスト期間中に入って無謀に近い。
エマは俺が口籠っているのを無視して、「ブルルルル〜〜」と嘶く真似をしながら、エンジンが掛かったようにワークと資料集に睨めっこを始めた。
「ええええ……」と、思わず唸ってしまう。
そのままエマから放置されたので、仕方なく短期アルバイトと宿の検索と予算の計算をし始めた。賑やかな喫茶店の中で、この席だけが静かになる。追加のメニューを頼みながら、長居が続く。
結果……卒業準備と短期アルバイトとエマの勉強の付き合いで受験時並みに体力を奪われた俺に、エマがニヤニヤしながら成績表を突きつけてきた。
まさかの高得点……
いきなりもマズすぎて、温泉に行く日までに映画と水族館が追加された。
end
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