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「ナマイキだ!」
あたしは白い息を吐き散らしながら坂道をのぼっていた。
「今日は彼女とデートだから遅くなる? ふざけんな!」
まだ柔らかい雪をドスドス踏みつけて進む。ショートブーツの上から雪が入って踝のあたりが濡れているけれど、そんなことはどうでもいい。冷たさも感じない。
「家族を大切にしろっての!」
文句を言いながら勢いよく踏み出した足がツルンと滑り、あたしは慌てて両腕で箱を抱えた。電柱に寄りかかって、あやうく尻もちを免れる。
急いで箱の中を確認すると、特注のケーキはどうやら無事なようだ。
「よかった」
あたしは安堵のため息を吐く。
今日はクリスマスイヴだが、祖母の米寿の誕生日でもある。いつもクリスマスと一緒にお祝いしているのだが、米寿ということで今年は特に盛大に祝おうということになっていた。
祖母は明るい性格で、みんなに愛されている。去年から体調を崩しがちなので、誕生日ぐらい元気に過ごさせてあげたいと、家族は数ヶ月前から祖母の健康に気遣ってきた。
――それなのに弟のやつ!
まだ高校生のくせに最近ナマイキにも彼女ができて、クリスマスは二人で過ごすから誕生会に出られないなんて言い放ったのだ。
「なにが、彼氏いない人にはわかんない、だ」
思い出すと怒りがふつふつと沸いてくる。
弟は祖父が死んだときのことを憶えてないから、わからないのだ。お年寄りが次の年も変わらず元気でいてくれるとは限らないことを。急な別れに為すすべもない無力感を。
あたしは唇をきゅっと引き結んだ。
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