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帰宅すると両親が誕生会の準備を進めていた。
「手伝う?」
ご近所や親戚も呼んであるので食器の用意だけでも大変そうだ。
「大丈夫よ。料理もほぼできてるし」
母は機嫌よくケーキの箱を受け取った。
「おばあちゃんの相手してあげてて」
聞けば、一人ぼっちで自室に追いやられているという。
あたしはコーヒーを淹れて祖母のところに向かった。
「ただいま」
祖母の部屋にはコタツとテレビがある。
「おかえり」
にこにこ顔でふり返った祖母にホッとして、あたしもコタツに入り込む。
「寒かったろ」
「うん、雪は止んだけどね」
二人で熱いコーヒーをすすりながらテレビを見た。クリスマス本番の街頭を中継していて、カップルの姿が目立つ。
「クリスマスっていつの間に恋人イベントになったんだろ」
思わずつぶやく。
「アイツまでデートなんて浮かれて馬鹿みたい。今夜はおばあちゃんの誕生会なのに」
「いいんだよ」
あたしの肩を軽く叩いて祖母が言った。
「こんな年寄りに気遣って女の子を泣かすことないだろ」
「えー? 納得いかない」
「きょうだいってね、同じ屋根の下で暮らせる時間は家族の中で一番短いんだよ」
祖母は微笑んだ。
「いずれそれぞれ結婚して新しい家族を持つんだ。家族より恋人ってのは、その第一歩。悪いことじゃないよ」
「結婚なんてそんな先のこと」
正直なところ、家族以外の誰かと暮らすなんてまったく想像がつかない。
「何言ってんだい、私なんかアンタの年にはボーイフレンドに求婚されてたんだからね」
祖母は茶目っ気たっぷりに片目をつぶり「弟に先越されてる場合じゃないよ」と痛いところを突いてきた。
「モテないわけじゃないからっ」
あたしは変な汗をかきながら変な言い訳を口走っていた。
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