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  今、俺はとある花屋に立ち寄っていた。   付き合っている彼女にクリスマスプレゼントを贈る為にだが。彼女は俺と同い年の24歳。付き合い始めてから2年になる。俺は高卒で就職した。現在、とある大手企業にて働いている。もう6年は経つから早いものだ。   花屋の店員さんに声をかけた。お勧めの花がないか訊くためだ。 「……あの。すみません。付き合っている彼女に花を贈りたくて。今の時期にちょうどいい花はないですか?」 「……今の時期にちょうどいい花ですか。そうですね。冬に咲く花でしたら水仙とか鈴蘭あたりでしょうね」 「彼女、白い花が好きなんですよ。けど俺。花の種類とか全くわからなくて」   そう言うと店員さんは考え込んだ。少し経ってお店の隅に置いてあった花を見てそちらに近寄った。すっと一輪の花を持ってきてくれた。さすがにベテランの女性なだけはある。 「見かけは目立ちませんけど。香りの良さで言ったら鈴蘭なんてどうでしょうか?」   店員さんの言葉につられて鈴蘭の花を見る。白いベルの形の花が幾つも連なった可憐な花だ。プレゼントにしてみようか。そう思って店員さんに言った。 「……じゃあ。その鈴蘭をください。プレゼント用にラッピングしてもらえませんか?」 「わかりました。少々お待ちください」   店員さんはカウンターに行くと持っていた鈴蘭をラッピングして綺麗な花束に手早くしてくれた。最後に花束の根元に赤いリボンを付けてくれる。クリスマスカラーだとすぐに気づく。俺はポケットから財布を取り出して料金を支払った。鈴蘭の花束を受け取ると店を出たのだった。   その後、彼女こと小百合の住むアパートに行く。呼び鈴を押したらすぐに小百合が出てきた。 「……あ。優弥じゃない。どうしたの?」 「いきなりで悪い。今日はクリスマスだろ。プレゼントを渡したくてさ」 「そういえば、そうだったね。けど良い香りがする」   小百合が言ったので俺はそっと花束を彼女の目前に差し出した。当然ながら驚かれた。 「……え。これ。花束だよね」 「そうだよ。小百合、白い花が好きだろ。花屋に行って店員さんに訊いたら。これを勧めてくれたんだ」 「そうなんだ。わざわざ、ありがとう」 「……メリークリスマス。小百合」 「うん。メリークリスマス」   小百合は照れながらも言ってくれた。俺は気づけば笑っていた。 「それより、優弥。外にいたら寒いよね。中に入りなよ」 「わかった。今日は夕飯、なんか食べたか?」 「……コンビニで手羽先のフライ売ってたから。後、ケーキもあるよ」 「そっか。んじゃ、食べようか」 「そうだね。優弥、意外と甘いもの好きだもんね」   小百合がくすくすと笑う。俺も笑いながら中に入った。そうしてクリスマスの夜を過ごしたのだった。   翌日、俺は小百合の部屋で泊まって朝帰りする。お酒の飲み過ぎで二日酔いになってしまう。小百合が気を使ってリンゴのすりおろしたのを用意してくれた。 「……悪い。うう、頭が痛え」 「まあ、仕方ないよね。優弥、ビール好きだし」   はいと手渡されたすりリンゴを食べる。意外とあっさりした味で食べやすい。これを食べた後、酔い止めを飲んだ。小百合がベッドで寝るように勧めてきた。仕方ないので言葉に甘えることにする。 「優弥。今日は平日だけど。スマホ持ってる?」 「持ってる。ちょっと部長に電話しとくよ」   そうした方がいいと小百合が言ったので俺はスマホを操作して仕事先に電話した。時計は朝の7時を過ぎている。 『……もしもし。楢崎ならざき部長ですか?」 『……もしもし。ああ、俺だが。山浦。どうした?』 『すみません。ちょっと今日は体調が良くなくて。休んでもいいでしょうか?』 『体調が良くないのか。わかった。ゆっくり休めよ』 『本当にすみません。じゃあ、失礼します』 『ああ。お大事に』   ぷつっと電話が切れた。楢崎部長が察してくれる上司で良かった。俺はほうと息をつく。小百合は心配そうにしている。 「……どうだった。部長さん、怒ってなかった?」 「大丈夫だったよ。むしろ、心配してくれて。助かったよ」 「そう。なら良かった」   小百合はホッと胸を撫で下ろした。俺はごめんなと言って小百合に近づいた。ぽんぽんと肩を叩いた。軽くだが。小百合は照れながらも素直に俺に抱きついた。しばらくそうしていたのだった。   -終わり-
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