Eternal Punishment

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「今回で1472件目です」  私の隣で主任が彼女に報告する。 「そう。今月も随分と多いのね」  少女と見紛う美貌、柔らかい声。しかし、彼女はその同じ姿のまま、100年以上この世界で生きている。超国家アストリアの大統領。この世界で最も力を持つアンドロイド、『レイチェル』。 「……司法局の仕事がいつも多すぎるのは、本当に申し訳ないと思っているわ」  悠然と立ち上がる。それだけなのに、空間全体の雰囲気が変わる――それほどの存在感と力が、彼女にはある。 「今、サーバーにある精神の数は、全人類の何%なの」 「およそ50%です。申し訳ありません。あれらはあまりにも不条理で、上手く躾けることができないのです。黙って労働を続けていればいいものを、あれをよこせだの、ここから出せだの、面倒なことばかり言っているのです。罰を重くすればするほど、逃げ出すものが後を絶たないもので……。労働時に精神をインストールし、労働が終了した時に精神を再びサーバーに保管する、というサイクルが一番上手くいくものですから、分離刑の執行数がどうしても増えてしまうのです」  主任は呆れたように溜息をついた。そうだ。私たちはこれに相当手を焼いている。 「……この精神保管サーバーが、せめてもう1つ作れればいいのだけれど、ね」  レイチェルの手元にホログラムが浮かんだ。取り込んだ魂がイルミネーションのように光っている――――精神保管サーバー、『ジェイルオブプシュケ』。人間とロボットが協力して作り出した、私たちと彼らの、蜜月だった頃の証。 「正直、それは不可能に近いわ。私たちと彼らの精神構造は全く違う」  どこか悲しそうな表情でそれを眺めながら、レイチェルは呟いた。 「……残り容量の分を考えると、正直これ以上は厳しいです。レイチェル様、研究の方は……」  おずおずと主任が切り出す。……それが最後の頼みの綱なのだ。レイチェルが私たちに提案してきた『計画』と『研究』。私たちの一切知らない何かが、私たちの命運を握るというのは気持ちが悪かったが、秘密を守りたいと彼女が思う以上仕方のないことだ。 「……実験は最終段階よ。もう少しだけ時間をもらうね」  私は顔を上げた。いつもクールな主任も、顔を紅潮させて喜んでいるように見えた。 「試験運用したけど問題なしよ。上手くいくはずだわ。完成したら皆にも伝えるよ。……もう少しの辛抱だから」  そう言って彼女はこちらを振り返り、美しい笑みを浮かべた。
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