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会いたくて、こうやって振り回されて、でもそれが嬉しくて。バカな男だと笑われてもいい。
「慎一朗?!」
突然の抱擁にビビリながらも僕だと認めた春樹は信じられないものを見たと目を見開いた。
「え、何、え、……?」
「何、はこっちのセリフだよ。なんでいんだよ」
春樹の住む街とここは遥か離れている。列車で数時間もかかる場所なのに、フラっと来るような場所じゃないのに。
「え、っと、うん、」
春樹は気まずそうに僕の腕を外すとモジモジと視線を泳がせた。黒いコートとその下のスーツは僕と同じく仕事上がりそのままの恰好で。手にしたバッグはビジネス用そのもの。
「会いに来たの?」
聞くと頭をガリガリっとかいて「ごめん」と謝った。
「クリスマスだからってなんもしないって慎一朗は言ったけど、やっぱり会いたくて……引くよな。わかってる、阿保だよな、ごめん」
阿保はどっちだ。
恋人に会いに来たことを謝らせるバカがどこにいる。僕だ。
もう一度抱きしめた。
ヒュウ~っと通り過ぎのやじ馬がからかう様に口笛を吹いていく。
「し、しんいちろ?」
普段は絶対にこんなことはしない。絶対しない。他人がいる前でなんか、絶対絶対触れたりなんかしないのに。でも抱きしめたい。
「ごめんは僕のほう」
謝ると春樹は驚いたように肩に手をかけ、体を離そうとした。顔を覗き込もうとするのを必死で防ぐ。今見られたら恥ずかしくて軽く死ねる。
「え? 本物の慎一朗だよね?」
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