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繋がらなくなった電話。
すぐに留守番電話に切り替わってしまう。メッセージを残したって折り返しかかってくるでもない。真っ暗な自宅に帰って留守電の点滅がない風景は失いかけた大切なものの存在を強くアピールした。
「メッセージはゼロ件です」
冷酷な機械の声が何度もそれを思い知らせた。
会わなきゃ。
直接会って、好きだと伝えなきゃ。
いつだってあいつのほうが僕を好きだと思っていた。
包まれるように愛される幸せを教えてくれたのに、僕はそれに応え切れていない。こうなって初めて自分の傲慢さに恥ずかしくなった。
このまま失いたくはなかった。離れていたって、会えない時間が多くたって、あいつは僕のたった一人の大切な人なんだから。
みどりの窓口には長い列ができていて、こころなし浮かれた気分の人たちが大切な人に会うキップを手に入れようと先をじっと見つめている。
最終列車に乗ってあいつに会いに行く。
こんな計画性のないことをするなんて初めてのことだ。もしいなかったら? 誰かと過ごしていたら? そんな不安が心をしめつける。
列の最後に並んで人の流れをぼんやりと見た。
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