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これだけの人がいるのに、なんであいつなんだろう。
これだけの人がいるのに、なんであいつはここにいないんだろう。
今すぐ会いたい。
なかなか進まない列にうんざりしながらため息をつく。
『お客様にお知らせいたします』
ふいに流れたアナウンスに列が一気にざわついた。人の声のほうが大きすぎて大事なところが聞き取れない。流れる電光掲示板を見ると、雪による障害で列車が一時ストップしていると書いてある。行き先はあいつの元。
「まじかよ」
ここまで来たのに?
やっと勇気をもって会いに行こうとしているのに?
神様は意地悪だ。
こんなピンチだっていうのにさらに僕を苦しめる。
「いつ動きますか?」
前のほうの人が駅員さんを問い詰めているけれど、困った顔で謝られているだけだ。天気予報ではこれからさらに雪が降るという。状況が好転するとは考えにくい。
どうしよう。
ほかに行く方法は?
頭の中であいつの元へ行く方法を考える。JRがダメなら高速バスという手もある。だけどそれには明日の朝まで待たなければならない。クリスマスには絶対に間に合わない。
約束なんてしてないし、プレゼントだって買っている暇がなかった。そもそも連絡がつかない。
こんな手ぶらで行き当たりばったりで会いに行こうなんて計画性がなさすぎだ。だけど会いたい気持ちが僕を衝動的に動かす。
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