クリスマスキャロルが鳴る前に

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 朝から続いていた雨はいつのまにか形を持ち始め、ボタボタと重たい雪へと変わっていた。肩に積もった雪を払うと音を立てて地面に落ちた。コートの色が変わっている。  仕事を終えた足で向かった駅のコンコースを早足に駆け抜けると、濡れた靴が滑ってあやうく転びそうになる。慌てて体勢を立て直したけれど、誰も気にせず通り過ぎていく。  めまいがするほどの人の波が同じ流れを作っている。一つの場所を目指して突き進んでいくような景色の中に僕は体を滑り込ませる。  会いたい、と思ってここまで来てしまった。  約束なんてしていない。  ただ、会いたかった。  遠距離恋愛なんてどうってことないと思っていた。  いつでも会える距離にいた時だって、仕事だとか付き合いだとか、たくさんの理由を前に会えずにいたから。だから転勤で離れるってわかった時もそんなに気にならなかった。  その気になればいつだって会える……なんて、勘違いも甚だしい。  ザワザワとした人ごみの中に流れているのはクリスマスソング。改札の前にきらびやかに飾られているのはクリスマスツリー。カップルたちは仲良さそうに楽しそうに手を繋いで僕の横を通り過ぎていく。 『別にクリスマスだからって特別なことしなくたっていいだろ』  そういったのは、僕だ。  確かに仕事も忙しかったし、年末に向けての雑用がとにかく多くて余計なことを考えられなかった。でも受話器越しにあいつが黙り込んで「わかった」と電話が切れた時、それは間違いだったのかもとは思った。  思ったけれど切れた通話をもう一度繋げる余裕はなくて。  それも全部言い訳だ。  忙しいと言えば許されると僕は甘えていたのだ。
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