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隣町のスーパーで買い物をして帰ってくると、ゴローは話疲れたからと梟の姿に戻って森に帰り、ニーナは出かけてしまったのか姿が見当たらなかった。
料理は僕一人でするしかなさそうだ。
僕は台所のシンクの上に買って来た豆腐を並べ腕組みして考えた。
豆腐から作るには時間がなさすぎるから、とりあえず市販の豆腐を買ってはみたものの。
僕は揚げ物なんて、生まれてこの方一度もしたことがない。
「こんな時はあれだな。スマホだ」
僕はさっそく料理のレシピサイトを開いて、油揚げの作り方を検索してみた。
「おお。こんなにも油揚げの作り方が――」
豆腐を薄く切って、水切りはしっかりと時間をかけて。
水切りをしている間は暇だから、風呂掃除をしたり、ニーナがいつ帰ってきてもいいように晩御飯の支度をしたりして時間を潰そうか。
そうして始めた豆腐の水切りは、二時間もすると、瑞々しかった豆腐からはすっかり水気がなくなっていた。
「ぺったんこになっちゃった」
水切りに失敗すると油揚げにならないらしい。
必要以上に時間をかけた気もするけれど、まあいいだろう。
こういう時の僕は、石橋を叩いて叩いて十分大丈夫だと確認してから渡るくらい慎重になる。
だからサイトに書かれている以上の時間を水切りにかけてしまった。
これでやっと油で揚げることができる。
「油を鍋にたっぷり? 1センチくらいの厚さ? 二つのやり方があるけど、どっちがいいんだろう」
料理初心者はこんな簡単なことでも頭を悩ませる。
流しの下からフライパンを出して一応綺麗に洗ってから、ガス火にかけて水気を飛ばす。
このくらいは、ほら、家庭科でも習うから。
フライパンが十分に乾いたらサラダ油を注ぎ入れる。あまりたっぷり入れてしまうとあとの処理に困りそうだからと、今回は少なめな油で揚げることにした。
サラダ油が温まった所に、水気を切った豆腐をそうっと滑らせるように投入すると、すぐにプチプチと小さな泡が豆腐の周りから出始めた。
「油跳ねたら怖いな」
鍋の蓋を盾の代わりにして体の前にかざしながら、豆腐の様子を観察する。
キツネ色になるまで、じっくり両面に火を通した。
しかし良い感じの色味になっても、油揚げっぽくはならなかった。
時間が少なかったのだろうと、さらに揚げ続け、何となくそれっぽくなったところで引き上げてみた。
少し冷めた頃合いを見計らって試食をしてみると――。
「焦げてる」
失敗だ。
僕はがっくりきてシンクに手をついた。
やっぱり僕に料理なんて無理なんじゃないか。
つい、そんな弱気な思いが胸を過る。
「ごめんください」
さてどうしたものかと考えていた時、誰かが勝手口を開けて土間へと入って来た。
ニーナが戻って来たのかと思ったけれど、彼女がわざわざ挨拶するとも思えない。
振り向いて見ると、そこには 宮司さんが立っていた。
「え、なんで!?」
「ニーナさんからお話を聞いて。何か和希さんのお手伝いができないかと思ったんです」
そうか。ニーナ、いないと思ったら、お宮に行っていたんだ。
「宮司さんも無事だって聞いて安心してたんだ」
「和希さんもご無事で良かったです。油揚げ、作るんですか?」
言いながら、宮司さんは僕の手元を覗き込んだ。
「ああ、いや、これは失敗作で」
何をしてもダメな男だと。
結局僕は、そんなふうに彼女に思われてしまうんだろうな。
「え、でも、美味しそう」
確かに見た目はカリカリッとしていて、まるでビスケットのようだ。
「食べたら焦げてるのがわかりますよ」
「和希さん、めんつゆってありますか?」
「ああ……。うどんを食べるのに買ってたかな」
僕は冷蔵庫からめんつゆを取り出した。宮司さんはそれを受け取ると、お皿に希釈したものを注いで、そこにカリカリの油揚げを漬け込んだ。
「水分を含んだらある程度柔らかくなって、味も浸みて美味しくなるんじゃないかと思うんです」
「おお……」
しばらくして味見をしたところ、なるほど稲荷寿司に使う油揚げのようになっていた。
「意外に美味しい」
「ふふ。美味しいですね」
二人で一つのお皿から取り分けた物を味見する。
(何だろう、この幸せな時間)
なんて、ふわふわしている場合じゃない。
油揚げを完成させなくては次に進めないんだ。
「今度はもう少し厚めに切ってみたらどうですか?」
料理の心得があるのか。今や頼もしい助っ人となった宮司さんの助言を受けて、先ほどよりも五ミリくらい厚く切ったのを油で揚げてみる。
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