深海のうたひめ

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深海のうたひめ

ひろいうみ。 そのふかいふかい うみのそこに ひとりの人魚がすんでいました。 ともだちは しんかいにすむ すこしみかけがこわいおさかなたちでした。 おさかなたちは 人魚のことがだいすきです。 きょうも 人魚のまわりをゆうがに泳ぎまわっています。 「ちょっと、おてつだいをおねがいしてもいいかな?」 人魚がおねがいすると、もちろん!とおさかなたちは体をささえました。 人魚のおびれは、ぼろぼろでとてもおよげたものではありませんでした。 「ありがとう。 さんごのどうくつにいきたいの」 おさかなたちは、そのばしょがだいすきでした。 すてきな歌声をきけるからです。 すんだ声が、しんかいにひびきわたります。 それをききつけたおさかなたちが 穴の中へとあつまってきました。 人魚もおさかなも このじかんがだいすきです。 うたいおえると、人魚はにっこりとわらって 「たくさんのおさかなさんたちのまえでうたうのははずかしいわ」 「人魚さんのうたをきいていると、げんきになれるんだ!」 「あしたももちろん聞けるよね?」 人魚はまたむじゃきなえがおをむけました。 人魚はじぶんのおびれがぼろぼろで、じゆうにおよげなくても しあわせでした。 わたしのことをたすけてくれる おさかなさんたちがいて わたしのうたごえを すきでいてくれる 人魚のまちでは できそこない とよばれて だれにもあいてにされなかったのに ここではひつようとされている 「みんな、ありがとう」 人魚は ありがとう ということばを ほかのだれより たいせつにするのでした。 日はしずみ、ほかのおさかなたちが寝しずまったころ。 人魚はかいそうを毛布にして、よこになろうとしたときに いっぴきのあかいおさかながやってきました。 「あのぉ、人魚さん」 「あかいおさかなさん。 こんな夜ふけにどうしたの?」 「ぼくも、人魚さんとおなじくうまくおよぐことができなくて」 あかいおさかなさんが、じぶんのおびれを人魚にみせました。 それは からだにはあまりにちいさすぎる おびれでした。 あかいおさかなさんが、かたります。 「なのでここまでたどりつくのに、時間がかかって  こんな夜更けになってしまいました。 ごめんなさい。  でもどうしても、ききたくて。 どうしてぼくには、人魚さんのように  すてきなものをもっていないのでしょう。    ぼくはまちのおさかなからも、かぞくからも、  やっかいものとおもわれている。    どうやったら人魚さんのように、生きられるの?」 すがるように、あかいおさかなさんが問いかけました。 人魚はゆっくりくびをよこにふると、いいました。 「じぶんのすみやすいところを、じぶんでさがしに出かけただけ。  そこで大きなおさかなにおそわれて、  まったくおよげなくなったところを助けてくれたのが、  ここのまちのおさかなたち。  わたしのうたでよろこんでくれるのがおんがえしになるのなら  うたいつづけるわ」 あかいおさかなは、きづきました。 このまちに人魚がひとりだけなのは、どこかの町からやってきたから。 じゆうなからだをゆめみるのではなく、しあわせをゆめみていたから。 だからいつもすてきなえがおをしているのだと。 あかいおさかなは、ちいさいながらもおびれをぱたぱたとふりました。 「人魚さん、ありがとう。 どうしなければいけないのか、  ぼく、わかったきがする」 「わたしの言葉が あかいおさかなさんにとってよいものになったのなら  よかった」 「おやすみなさい、人魚さん」 「おやすみなさい、あかいおさかなさん」 さきほどとはちがうおよぎで、ちからづよくおびれをうごかして かえっていきました。 そのつぎのひ。 さんごのどうくつにつれて行ってもらう途中で、 きのうのあかいおさかなさんをみかけました。 あかいおさかなさんは、かいそうをかきわけてどこかに向かっています。 きになった人魚は、おさかなさんのちからをかりて あとを追いました。 「あかいおさかなさん」 こえをかけると、あかいおさかなさんはふりかえりました。 「人魚さん。 あえてよかった。  ぼく、このまちをでることにしたんだ」 すっきりとしたえがおで、言い切りました。 「人魚さんのように、じぶんのいるべきところをみつけるために」 まよいのない、しっかりとしたこえでいいました。 「きっとみつけられるわ。 いってらっしゃい」 人魚はあかいおさかなさんをやさしくなでました。 くすぐったそうにくるくる人魚のまわりでじゃれたあと、 ゆっくりと前をむいて およぎはじめました。 ちいさいおびれは、ちからづよく いっしょうけんめい ゆれています。 人魚は、しずかにうたいはじめました。 あおいうみのように澄んだこえが、まちにひびき また、あかいおさかなさんのこころにも深くひびきました。
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