戦争は始まったばかり、チャンバラはまだ始まらない

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戦争は始まったばかり、チャンバラはまだ始まらない

 深い闇。それは途轍もなく広大な宇宙の原色だ。何もない暗闇では絶望が存在するが、眩い光があるおかげでその絶望に打ち勝つことができる。しかし時として光は、宇宙の暗闇をさらに深いものにもしてしまう。広い宇宙の片隅で一際目立つ美しい光がある。その光のほうへと目を向けてみることにしよう。  灰色の都市にたくさんの車。青い海に緑の山。そして白い雲。すべてが渾然一体となってこの光は放たれている。青く、丸い地球の光。だがそれだけではない。さらに強い光がここにはある。  すると突然、大きな宇宙艦が目の前を横切り、赤い光線が放たれる。戦争――人々は恐怖する。そう、ここには戦争が放つ強い光がある。  今、一隻の宇宙艦が地球へ落ちていく。蝋燭が消える間際のような美しい色が一瞬現れて、炎を上げる。そして爆発が起こり兵士たちの亡骸が飛び散る。 ――大気圏外――  共存軍の司令官、アロス・ドラクジは冷静な軍人で今日も艦隊の指揮をとっていた。彼の目標は犠牲者を出さないこと。当然、目標が達成されることはない。だが作戦遂行よりも部下の命を重視する彼の姿勢に皆の信頼は篤い。そんなアロスの額に汗が滲んでいる。戦況は最悪だった。 「第七艦隊、大破! 第八艦隊も被害甚大です」  女性オペレータのミサが声を荒げた。 「アロス艦長、撤退しますか?」
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