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盲姫ムスカリ
ある時、長期で貴族の屋敷に潜り込み、内情を探る仕事が来た。
ナズナが16歳になった時のことだった。
その貴族は、善良で有能という、庶民にとってありがたく、貴族にとって迷惑な存在だった。
その貴族にダメージを与えるような、スキャンダルや内部情報、弱点などを探ることが、ナズナの役割だった。
半月ほどの侵入で分かったことは、その貴族が素晴らしい人間であるということだけだった。
依頼者の求めるような、裏帳簿や陰謀、放蕩の痕跡は一切見つからなかった。
唯一弱点と言えるとすれば、彼の娘だろう。
14歳になるその娘は、小柄で、整った顔をした、飴細工の様に繊細で、甘やかな匂いのする少女だった。
ただし、少女は生まれつき目が見えなかった。
そのため、その貴族は娘をひと際大事にしているようだった。
少女の名はムスカリ。
盲姫(めくらひめ)。ムスカリは陰でそう呼ばれていた。
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