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透明人間ナズナ
ナズナの体は、生まれた時から空気のように澄んでいた。
一切の光を透過して、その姿を人の目に映すことはなかった。
赤ん坊のナズナを抱いてあやす母を、周囲の人間は狂人だと揶揄した。
そして、何もない場所から聞こえるナズナの泣き声を、悪魔の声だと言って、ナズナの母を迫害した。
なので、ナズナの母は、山の中で一人、ひっそりと暮らすことになった。
ナズナの姿は、成長しても色を持つこともなかった。
ナズナはその見えない体で、いたずらをしたが、声や気配ですぐにみつかってしまった。
見つからない場合も、広い範囲に魔法を放たれてしまえば、いぶされたネズミの様に、出ていかざるを得なかった。
そして、ナズナが何をしなくても、周囲の人間は神から姿を奪われた呪われた子だとナズナを迫害した。
そのうち、ナズナは気配を消して、見つからないように身をひそめることを覚えた。
ナズナが10歳になった時に、ナズナは不法に奴隷商へと売られた。
村人が、ナズナを気味悪がり、厄介払いのために、ナズナの母親に無断で奴隷商をよんだのだった。
ナズナの母は、いなくなった見えないナズナを探し続け、山で足を踏み外し、滝に落ちて死んでしまった。
ナズナを買ったのは、盗賊ギルドだった。
ナズナの決して見えない体は、諜報や暗殺にはもってこいだった。
村で長年続けていた、身をひそめるすべは、盗賊ギルドでは皮肉なことに非常に役に立った。
姿が他の人に見えないので、ナズナは逃げ出そうと考えたこともある。
けれど、ナズナは、3か月に1度、主人から魔力をもらえなければ死ぬという「奴隷の刻限」という呪いを受けていた。
生き延びるために、ナズナは盗賊ギルドの言うことを、聞き続けるしかなかった。
幸いだったのは、ナズナに戦闘技術がなかったことだ。
あまりに接近すると、手練れの武芸者や魔術師には気配で存在がばれてしまう。
姿が見えないので、指導のしようがなかったし、傷を受けた場合、床に落ちた血で存在を悟られる危険性もあった。
なので、ナズナに暗殺の仕事がくることは減り、もっぱら諜報活動をすることとなった。
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